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CSR-NPO未来交流会 連携事例
講演-1(協働マッチングの取り組みに向けて)

 

ISO14001規格改定による 新要求事項「生物多様性」への対応

中井 邦治 /経団連自然保護協議会 事務局次長

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今日の説明内容は、右表のとおりです。規定改定後の生物多様性に関する課題と対応を中心に説明します。

 

 

課題と対応

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ISO14001の経過について、発行と改定を含めて次の図表に示します。1992年のリオ会議で検討が始まり、1996年にISO14001初版が発行され、2015年9月には24の勧告項目に及ぶ大幅な改定が行われました。生物多様性に関しては、5項目目が重要です。(定義された24の勧告 p2図表参照)

 

5項 環境原則の考慮

2015年の大幅な改定のうち上図表で示した赤字の箇所に着目する必要があります。
①汚染の予防、②持続可能な資源の利用 、③気候変動の緩和及び気候変動への適応 、そして ④環境保護、生物多様性及び自然生息地の回復です。特に④を新しい課題としてとらえる必要があります。

 

生物多様性のとらえ方と課題

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さまざまな企業にヒアリングした結果、生物多様性のとらえ方の課題は、歴史的要因、社会的要因そして技術的要因の3つに大別できます。それぞれの課題について説明します。(図表参照)。
併せてこれらの課題に対して、企業などの組織に対して、どんなアドバイス・取り組みをしたら良いかを考えて見ましょう。
NGO、NPOのみなさんも企業から「なぜ企業が生物多様性に取り組む?」と質問されることもあるかと思います。同様に「生物多様性への対応は、国家が取り組むことではないのか」という疑問もよく寄せられます。これらの質問・疑問に答えるためには歴史的経過を知る必要があります。

 

歴史認識の重要性

1992年のリオの会議以後、生物多様性は国と国との交渉ごとでしたので、生物多様性への対応は当初は確かに国が対応する課題でした。しかし2006年に民間参画決議が行われ、2008年にビジネス参加決議があり、世界は企業の取り組みを要求し始めて、2010年には名古屋で開催されたCOP10で企業への取り組み要請は決定的となりました。そこに加わったのがISO14001の2015年改定です。ISOを持っている企業では、生物多様性に関する義務的な活動要求も発生し始めています。
環境への対応は1950年代、「排水や排ガスの対応」など事業所毎の取り組みが中心でしたが、「廃棄物排出や温暖化への対応」は事業所毎から企業単位となり、本社管轄になってきた経過があります。この結果、事業所毎の対応意識などが低下している傾向が見られます。
ISO改定で生物多様性への対応も必要になって来たことで、再び特色ある地域活動が求められています。本社の一括管理体制から(生物多様性への多様な取組に対応できるよう)事業所毎の、地域ごとの対応が必要となっています。

 

遺伝資源の課題(順守義務のリスクについて)

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もう一つの課題は、遺伝資源です。マダカスカルの事例(米国製薬企業の小児白血病医薬品の開発に伴う、マダガスカル原産のニチニチソウの活用研究で新薬開発)があり、1992年にNGOが「遺伝資源の原産国や地域住民に利益が還元されないことは問題である」とUNEPの政府間委員会の場で報告しています。
遺伝資源の取引は今まで、利用者同士の契約ですが、名古屋議定書(締結国約20か国)適用の場合は、提供国、利用国における条約上の義務・制限が生じます。我が国企業にとっては、取引先である海外企業の国内法がどのような規制をするのかなど、課題が把握し難く、取引当事者の企業だけではなく、当事国同士の条約、契約など関係が複雑化しています。遺伝資源が関係しそうな産業分野を参考までに下図表に示します。

 

生態系サービス

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生物多様性は自社事業には直接関係しないと考えるような企業にとって、生物多様性を捉える場合の考え方として、次の図表に示す通り「市民生活」が媒介の役割を果たしています。
生態系サービスは、私たちに自然の恵みの恩恵を与えることで、私たちの生活・衣食住に大きく影響します。また企業活動は、従業員、お客様(マーケット)などによって支えられています。生物多様性の恵みで市民生活が成り立ち、市民生活が成り立っているからこそ企業活動も維持できますという関係性に気が付きます。
ISOの新しい視点としては、企業活動から生物多様性への影響は、多くの部分は市民生活をとおして存在しているということです。

企業のサプライチェーンにおけるEMS(環境マネジメントシステム)についても触れておきます。この例(図表参照)は、自動車業界の企業例です。

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グリーン調達ガイドラインの改定概要をご紹介します。
環境ネジメントシステムをみんな持ってくださいという主旨で、お取引先様、並びにその先のお取引先様の環境マネジメントシステムの確認と自然共生社会の構築に向けた各種織組をお願いしています。
赤い文字の部分が≪新規追加≫されています。生態系サービスの考え方とあわせて、企業取引の中でも、今後、具体的な活動が始まると思われます。

最後の技術的要因に関する取り組みを説明します。

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企業の生物多様性のとらえ方(環境評価)

企業は環境影響評価(2004規格⇒2015規格)を、製品やサービスに適用させて評価しています。
生物多様性を検討するのは難解といわれますが、下の図表に示す「供給サービス、調達サービス、文化的サービス、基盤サービス」など4つの項目に分けることで理解が容易になります。

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ISOの新版はリスクと機会

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ISOの新版はリスクと機会があります。何か起こる前にリスクと機会を考えるという主旨です。

考え方としては、環境影響評価と同じように6つに分けて考えてみることがお勧めです。
項目はつぎの通りです。
操業関連、規制・法律関連、世評関連、市場・製品関連、財務関連、社内関連となります。右の図表に例を示します。

 

初めて生物多様性に取り組む

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環境マネジメントシステムで初めて生物多様性に取り組む際のパターンを図表に示します。ISO改定対応状況、環境方針、環境目標、その他の状況に応じてステップ1からステップ4の段階別取り組みを示します。

今は何も着手していない場合(ステップ1)、トップが説明を行わなければならない9項目(図表参照)に従いトップが(生物多様性の配慮をしないことの妥当な)説明をすることになります。
トップに負担継続させないよう、環境方針の中でなるべく早めに記述を追加したほうが良いでしょう。

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環境方針の中で維持と改善という2種類の書き方があります。維持であれば目標は書かなくても構いません(ステップ2)。

若し、目標管理を設定するとしても、定量目標ではなく、定性目標から始めるほうが簡単です(ステップ3)。
主要な生物多様性目標のほとんどは定性目標となっていて、愛知目標、経団連自然保護宣言も定性目標が多くを占めています。

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ステップ4に至ると、目標も定量化することになりますが、推薦する目標は「主流化」です(図表参照)
主流化を目標にするにあたり、生物多様性の認知度をアンケートなどの指標として採用し、社員などへの教育の都度、認知率を計測することが考えられます。

図表にあるように、環境省の基準値(75%)を到達すべき目標値にするのも良いと思います。

 

(※CSR-NPO未来交流会の講演に加筆 2016.0816)