■講演-3 マッチング事例(企業)

運河を美しくする会のご紹介

代表幹事会社 東京ガス株式会社 エネルギー企画部 池田 久美子

 「運河を美しくする会」の概要をご紹介いたします。芝浦・港南・天王洲地域に所在する民間企業13社と法人2団体によるボランティアの任意の会であり、これらの地域の運河およびその周辺をきれいに、より魅力的な場所にするために平成2年に設立されました。現在は弊社をはじめ、清水建設様、東芝様を筆頭に民間企業9社と法人2団体となります。

 関係行政機関や地元の方々と協力して地域社会貢献を目指すこと、かつ会員企業内の相互交流を目的としています。過去平成16年には国土交通省「手づくり郷土賞」【地域活動部門】国土交通大臣賞を受賞しております。

 それでは、これから主な活動事例を2つご紹介いたします。

 広報活動として1つに、芝浦アイランドでの、近隣の港区立芝浦小学校4年生への環境教育への支援および近隣住民を対象とした「運河見学&生き物の観察会」の実施です。 

 もともと芝浦アイランド南地区西側護岸では、国土技術政策総合研究所様が2006年に実験的に潮だまりに砂を入れ生き物の棲み処を作りました。ここでは、砂の流出や悪化により生き物が減少しており、環境の再生が必要な状況であったため、池の一部にて、①地域住民や地元小学校と協働でこの潮だまりに砂を補充し、生き物が棲める環境を再生すること、②運河の賑わいづくりの拠点としてより一層の利活用ができるようにすること、を目的として取り組んでおり、現在にいたっております。

 小学校の環境教育での支援では、まず座学での授業を行い、1)運河の意味や作り方、2)生態系・食物連鎖の話、3)運河に生息している生き物の話、4)運河を汚している原因の話(生活廃水、産業排水など)、5)世界の運河(ベニス他)、6)生き物の棲み処つくりについて講話をしました。次のステップとなる運河見学会では、運河授業で学んだことを、芝浦アイランド(芝浦西運河)の遊歩道を歩き運河を実際に見ながら確認するとともに、新たな気づきや疑問などに対して関連する内容を説明しながら学んでもらいました。

 砂の補充前に生き物を取り上げて、どのような生き物がいるか児童に観察してもらいましたが、その日確認できた生き物は、ハゼの仲間のチチブ、特定外来種のカダヤシ、ヤマトシジミ、クロベンケイガニ、ゴカイなどでした。観察会後は、児童みんなで砂を運河の潮溜まりに運び、浅場再生を行いました。最後は、スタッフが地ならし等の仕上げを行い、事前に採取しておいた生き物を潮溜まりに戻して作業を終了しました。
 そして、その護岸整備による生き物の棲み処再生の効果を確認するために、生き物・環境調査を10月9日に護岸前の潮溜まりで実施しました。結果、砂を入れた浅場、砂を入れていない深場、運河の底の砂・泥の比較をしたところ、池の底のDO(水中に溶けている酸素の量)は浅場で高く、いちばんきれいで臭いも少なく環境に良いことが分かりました。またシジミの飼育調査では、深場より浅場の方が多く生き残り、成長が良いことが分かり、棲みやすい環境になりました。
 一方、運河の底は酸素が少ない状態で、臭いも強いことが分かりました。
 最後に、児童たちがこれまでの取組み成果について取りまとめたその成果発表会が10月25日に行われました。調べたテーマは多岐にわたっておりましたが、学習した内容が身になっていることを感じました。

 活動の2つ目としまして、芝浦界隈の地域イベント「芝浦運河まつり」に出展し、当会の活動をPRしつつ、来場者に運河に関するアンケートを実施いたしました。アンケートの実施・結果集計・分析につきましては、当会の会員である東京都環境局の環境カウンセラーである風間氏が東洋大学総合情報学部の大塚准教授とともに行っており、結果につきましては、2015年3月に開催された日本水環境学会で発表しております。
 今回ご紹介する内容は、社会インフラの1つである「運河」の運河環境のあり方を検討する上での基礎資料ということで、特に都内で最も昼間の人口の多い港区の芝浦運河沿岸等周辺に生活する住民等に行ったアンケート結果となります。実施方法は、自由記述方式でのアンケートで、会場に訪れた方へのインタビュー形式としました。回収件数は185件。実施エリアは、天王洲エリア、芝浦エリア、一部晴海エリアとなります。解析手法は「テキストマイニング」手法で行っています。

 結果として、「運河の全体としての良いところ」の要素は、総じて、都会的雰囲気をもった開放感とでもいいましょうか。一方で、「運河の気になるところ」については、総じて、水質、特に臭いのことであり、降雨時の悪臭などに多くの声が寄せられました。

結論

  • 都会の生活空間として,運河は生活の中の一部であり,その開放感は大いに享受されていた。
  • 可能な場所は都会らしさがあり,生き物を通して自然を感じる姿が見えた。
  • ただ,雨天時の悪臭は気になっていた。
  • 安心,安全であることは必要不可欠であった。
  • 全体の印象として,運河がオープンスペースになることで,開放感が生まれ,気持ち良さに繋がっているようであった。
  • 景観的には,ビル群とのコントラストが評価されており,自然の豊かさよりも利便性が重視されている印象があった。
  • このことは,一般的な都市河川と住民の受け止め方や求めるものが異なるようであった。

 

 以上を受けての結論です。この中で、「自然の豊かさよりも利便性が重視されている印象」また「一般的な都市河川と住民の受け止め方や求めるものが異なる」という記述がありますが、これについて 大塚准教授の結論内容を補足させていただきます。東京という都会では、「運河」という1つの社会インフラは「おしゃれ」の1つの要因になってしまう。「開放的で都会的」というイメージに対して評価が高かったそうです。それは裏をかえすと、「都会的」、「おしゃれ」というイメージをクローズアップすることで、住民の満足度が満たされる結果になりました。一方「都市河川」は「歩きやすい」つまりは「人工的」であることに評価が高かったそうです。

 2020年のオリンピック・パラリンピックに向けて、東京都では水上交通網の見直しも進められており、運河の活用も検討されています。
 今後、「運河」というひとつの社会インフラの環境再生も、都市計画・まちづくりの重要な1つのキーワードとなりえるのではないかと存じます。以上、任意団体「運河を美しくする会」の概要および主な2つの活動事例につきまして、ご紹介を終わりにいたします。

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